
着物を見ていると、
「同じような色なのに、こちらの方がやわらかく見える」
「近くで見ると、生地の表情がずいぶん違う」
そんなことはありませんか?
着物は、一枚一枚にそれぞれ違った表情があります。
その美しさを生み出しているのが、染めや織り、絞り、刺繍(ししゅう)、箔(はく)など、昔から受け継がれてきた職人の手仕事です。
今回は、紀久屋創業50周年記念「創業祭」でご案内する、新潟県十日町市(にいがたけん とおかまちし)の老舗(しにせ)メーカー「きものの青柳」をご紹介します。
青柳が手掛けるブランドのひとつが、「蔵家 創柳庵(くらや そうりゅうあん)」です。
数ある青柳の技の中でも、今回は竹の櫛(くし)を使って生地に美しい表情を生み出す、特許技法「櫛引織り(くしびきおり)」を中心にご紹介します。
さらに、青柳のものづくりを知るうえで欠かせない「桶絞り(おけしぼり)」についても見ていきましょう。
きれいな着物の向こう側には、職人が手を動かし、時間をかけて作り上げる世界があります。
その背景を少し知るだけでも、いつもの着物が、また違って見えてくるかもしれません。
この記事でわかること
「きものの青柳(株式会社青柳)」は、1938年に新潟県十日町市で創業した着物メーカーです。
十日町は、古くから織物や着物づくりが盛んな土地として知られています。
青柳では、振袖や訪問着(ほうもんぎ)、紬(つむぎ)、帯など、さまざまな着物を手掛けてきました。
青柳の大きな特徴のひとつが、着物の企画からものづくりまで、自社の工房で手掛けていることです。
一枚の着物が出来上がるまでには、たくさんの工程があります。
一般的な着物づくりでは、それぞれの工程を、その道を専門とする職人が受け持つこともあります。
一方、青柳では、さまざまな技を自社の中で組み合わせながら、一枚の着物を作り上げています。
だからこそ生まれる、青柳ならではの色や生地の表情があります。
POINT
「なんだか、この着物は素敵」
ぱっと見た瞬間にそう感じる理由のひとつに、目立たない部分まで丁寧に手をかける職人の仕事があります。

青柳のものづくりを語るうえで、ぜひ知っていただきたいのが「櫛引織り(くしびきおり)」です。
櫛引織りは、青柳が開発した特許技法です。
名前の通り、竹で作られた櫛を使い、織物の糸に独特の動きを生み出していきます。

出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(茶縷地水衣:東京国立博物館)
櫛引織りの原点となったのが、能(のう)の衣裳(いしょう)である「水衣(みずごろも)」です。
水衣には、糸がゆらぐような、やわらかな表情があります。
青柳では、その美しさを現代の着物に生かすために研究を重ね、櫛引織りという独自の表現へとつなげました。
ワンポイント
櫛引織りは、単に柄を染めて表現する技法ではありません。
織物を作る糸そのものを動かすことで、生地に表情を生み出すところが大きな特徴です。

では、櫛引織りはどのようにして作られるのでしょうか。
通常、織物の経糸(たていと)は、まっすぐきれいに並んでいます。
櫛引織りでは、その整った経糸に竹櫛を使って変化を加えていきます。
きれいに並んでいる糸を、あえて少し動かすのです。
すると、生地の中に波のような動きが生まれます。
場所によっては、細かなレースのようにも感じられる、やさしい透け感が現れます。
これが、櫛引織りならではの美しさです。

普通なら、織物の糸はきれいにそろっている方が良いと思いますよね。
ところが櫛引織りでは、その整った糸を竹櫛で動かすことで、あえて変化を生み出します。
近くで見ると、糸が波打っているように見えたり、光の当たり方によって繊細な透け感が見えたりします。
遠くから見ると、すっきりと上品な一枚。
ところが近くへ寄ってみると、
「こんな細かな仕事がしてあったのね」
と、新しい発見があります。
ほんのわずかな糸の動きが、生地全体にやさしい奥行きを生み出しているのです。
ここに注目
- 糸が波打つように見える部分
- 細かなレースのように感じられる透け感
- 光が当たったときに変わる生地の表情
- 場所によって少しずつ異なる糸の動き

櫛引織りの魅力は、写真だけではなかなか伝わりません。
遠くから見ると、上品な一枚の着物。
ところが、生地へ顔を近づけるようにして見てみると、細かな糸の動きが少しずつ見えてきます。
見る場所によって表情が違い、光が当たると、また違った美しさを見せてくれます。
「ここにも」
「こちらにも」
と、生地の中にある小さな変化を探していくのも楽しいものです。
スタッフより
櫛引織りをご覧になるときは、ぜひ少し離れた場所と、生地のすぐ近くの両方から見てみてください。
遠くから見たときの上品さと、近くで初めて分かる細かな手仕事。その両方を楽しめるのが魅力です。
職人が竹櫛を使い、糸に少しずつ表情を加えていく。
その手間を知ったあとで実物を見ると、一枚の着物がより愛おしく感じられるかもしれません。
青柳のものづくりには、櫛引織りのほかにもさまざまな技があります。
そのひとつが「桶絞り(おけしぼり)」です。
「桶」という名前の通り、桶を使って生地を染め分ける絞り染めの技法です。
桶絞りでは、色を染めたくない部分を桶の中に入れ、染めたい部分を桶の外へ出します。
そして、桶の外へ出した部分を染めていきます。
こうすることで、
「ここは染める」
「ここは染めずに残す」
と、大きく色を染め分けることができます。
大胆な色の変化を表現できるのも、桶絞りのおもしろさです。
昔は檜(ひのき)などで作られた木製の桶が使われていましたが、現在ではステンレス製の桶なども用いられています。
POINT
桶絞りは、桶の外側へ出した部分を染め、桶の中へ入れた部分を染料から守ることで、色を染め分けていきます。
桶絞りというと、どうしても染料に浸して「色を染める作業」に目が向きます。
ところが、実はとても大切なのが染める前の準備です。
まず、どこを染めて、どこを染めずに残すのかを考えながら、生地を桶の中へ入れていきます。
この作業を「桶詰め(おけづめ)」と呼びます。
着物の生地は長いため、ただ桶の中へ入れればよいわけではありません。
完成したときの柄や色の位置を考えながら、職人が丁寧に生地を収めていきます。
そして、染料(せんりょう)が桶の中へ入り込まないように、しっかりと固定します。
もし小さなすき間ができてしまえば、そこから染料が入り、本来染めない場所まで色がついてしまいます。
ワンポイント
美しい色の境目を作るためには、染める瞬間だけでなく、その前の「桶詰め」の正確さがとても大切です。
つまり、きれいに染め上げるためには、
実際に色を染める前から、職人の技が必要なのです。
完成した着物だけを見ていると、なかなか気付かない部分かもしれません。
けれど、その美しい色の境目にも、職人の細かな仕事が隠れています。

櫛引織りと桶絞り。
使う道具も、作り方も違います。
けれど、この二つの技には大切な共通点があります。
それは、
最後は、人の手によって作られていること。
職人は、目で見て、手で触れながら、そのときの糸や生地の状態を確かめます。
長い経験の中で身につけた感覚を使いながら、一つひとつの仕事を進めていきます。
同じ道具を使えば、誰でもまったく同じものが作れる。
そんな単純な世界ではありません。
だからこそ、手仕事の着物には、どこか人のぬくもりを感じるのではないでしょうか。
着物を選ぶとき、最初に目へ入るのは色や柄ではないでしょうか。
「この色が好き」
「この柄なら長く着られそう」
「自分の帯に合いそう」
そんなふうに選ぶ時間も、着物の大きな楽しみです。
でも、気になる着物に出会ったら、ぜひもうひとつ、
「これは、どうやって作られているの?」
と聞いてみてください。
「この表情は、織りによって生まれているんですよ」
「ここは職人さんが手で染め分けているんですよ」
と背景を知ると、それまで何気なく見ていた一枚が、急に違って見えることがあります。

最初は、
「この着物、きれい」
という気持ちだけでも十分です。
そこから少しずつ作り方を知っていくと、
「この技が好き」
「この職人の手仕事が好き」
という新しい楽しみ方が生まれてきます。
着物の世界が、もう一歩広がるきっかけになるかもしれません。
スタッフより
難しい技法の名前を覚えなければ、着物を楽しめないわけではありません。
まずは「きれい」「好き」「ちょっと気になる」という気持ちを大切にしてください。
そこから作り手や技法を知っていくと、着物を見る楽しさがさらに広がります。

着物には、写真や画面だけでは伝わりにくい美しさがあります。
実際に手に取ってみて、初めて気付くこともたくさんあります。
特に青柳の櫛引織りは、ぜひ近くでご覧いただきたい技法です。
竹櫛によって生まれた、細かなレースを思わせるような透け感。
やさしく波打つ糸の表情。
見る場所や角度、光の当たり方によって変わる生地の美しさ。
そして、桶絞りによって表現される大胆で美しい色の染め分け。
一枚の着物の中に、
「ここまで手をかけて作られているのね」
と思える発見があります。
青柳「蔵家 創柳庵」の着物には、完成した一枚を眺めるだけでは分からない、さまざまな職人の仕事が隠れています。
竹櫛で糸に変化を与える「櫛引織り」。
桶を使い、色を大胆に染め分ける「桶絞り」。
どちらも違った技法ですが、一つひとつ人の手で確かめながら作り上げていくという点は同じです。
「きれいだから好き」から、
「この手仕事が好き」へ。
作り方を少し知るだけで、一枚の着物を見る楽しさはもっと深くなります。
難しい知識を覚える必要はありません。
まずは、
「きれい」
「好き」
「近くで見てみたい」
そんな気持ちから、着物の世界を楽しんでみてください。
紀久屋より
紀久屋では、「着物は好きだけれど、技法まではよく分からない」という方にも、実物をご覧いただきながら分かりやすくご案内しています。
生地を近くで見たり、実際に触れたりしながら、写真だけでは分からない手仕事の美しさをお楽しみください。

紀久屋創業50周年記念「創業祭」では、青柳「蔵家 創柳庵」の着物をご覧いただけます。
特に櫛引織りは、ぜひ実際の生地を間近でご覧いただきたい技法です。
糸の細かな動きや繊細な透け感、光によって変わる表情など、画面では伝わりきらない美しさがあります。
「青柳の着物を見てみたい」
「櫛引織りを実際に見てみたい」
「職人の手仕事についてもっと知りたい」
創業祭や青柳「蔵家 創柳庵」についてのご質問は、お気軽にお問い合わせください。
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